2024.11.29
戦略的M&AにおけるPre-M&Aからエクゼキューションフェーズにするべきこと
攻めのM&Aでは、Pre-M&A段階から戦略を明確にしたうえでM&Aを進めていくことが重要です。対象企業との対話を重視しつつ自社の戦略に即した決断を迅速に下すことで、M&Aプロセス全体を効率的かつ効果的に進行することができます。M&Aのプロセスを俯瞰しながら、「攻めのM&A」では具体的にどんなことを意識して取り組むべきなのか、解説します。
「攻めのM&A」と「受け身のM&A」プロセスの違い
M&Aプロセスは大きく分けてフェーズ1からフェーズ3の3段階に分けられます。「攻めのM&A」と「受け身のM&A」で大きく異なるのが、この中でもフェーズ1にあたるPre-M&A期間です。また、Pre-M&A以降も大きな違いが生まれてきますので、両者を比較しながら、「攻めのM&A」で求められる進め方について詳しくみていきましょう。
攻めのM&Aにおける「Pre-M&Aフェーズ」のポイント
Pre-M&Aとなるフェーズ1はM&Aの準備段階です。この期間は、主にM&A戦略を立案し、買収先のリスト作成をし、対象企業へのアプローチをしていきます。
「攻め」のM&A戦略では、特にPre-M&Aフェーズでの準備が重要視されます。この段階での戦略立案とターゲット企業の選定は、M&Aの成功を左右する決定的な要素です。戦略に基づいて対象企業を慎重に選定し、事前に十分な情報収集と分析を行うことで、より効果的な交渉とM&A実行が可能になります。
1.M&A戦略立案
M&A戦略を立案する際には、対象企業の選定基準や、どういった会社を買収して投資していきたいのかなど、投資判断基準の設定をしっかりと行います。
また、企業を買収することで、自社がどんなふうに成長していくのか、シナジーを具体的に見据えた上でM&A後の姿を描いていきます。
M&A戦略の立案においては、まず全社戦略と自社の現在地の比較をしてみましょう。
現状と中長期経営計画で描く未来とのギャップを確認し、ギャップを埋めるためには「何に、いつまでに取り組まなければならないか」を落とし込んでいきます。
ギャップを埋めるためには、次に挙げるように様々な手法があります。
<ギャップを埋める手段の例>
・M&Aを行う
・自社単独でビジネスを広げていく
・業務提携を行なう
・ジョイントベンチャーを行なう
M&Aを行うという経営戦略は、非常に大きなインパクトとコストをともなう選択肢です。ですから、他の選択肢も検討した上で、M&Aを行なうことが本当に自社の中長期経営計画で描く未来につながるのかどうか、戦略的な合理性について確認をしていきましょう。
2.ロングリスト作成
M&Aにおけるロングリスト作成とは、M&A戦略立案でつくった買収先選定基準に沿って、多い場合には100~200社にもなるターゲット候補企業をリストアップしていく作業です。
地域や業種など条件があれば、それをベースにリストを作成していきます。
上の図は、具体的な対象企業の選定基準の一例です。
一般的な基準として挙げられるのが
・業界、業種
・地域
・アセット
・財務状況
などです。
どのような業界・業種なのか、工場や会社の立地や地域性はどうか、ブランドや知的財産などのアセットをどのくらい保持しているのか、売上高や利益水準といった財務情報はどうかなど、どれもM&Aを検討するにあたって重要なポイントです。
また、一般的な基準に加えて大切なのが、数値ではあらわせない定性面です。
対象企業の事業は本当に自社が欲しい・投資をして広げていきたい分野なのかを確認することは当然です。加えてこの段階で確認しておきたいのが、買収可能性を測る株主情報や近年のM&A情報です。買収可能性が低い会社をいくら検討していても、M&Aの実現には結びつきません。
3.ショートリスト作成
多い場合には100社以上となるロングリストにリストアップしたすべての企業に対して、アプローチ・検討をしていく作業は非現実的です。ショートリスト作成の段階で、外部データ等に基づき10社程度まで絞り込みます。
また、この段階で、自分たちが買収したいと思う会社や買収可能性の高い企業を順位づけしていきます。
4.対象企業へのアプローチ
ショートリストにランキングされたトップ10ないしトップ5に残った企業を優先的にアプローチしていきます。
M&Aの成功率を高めるには?
このアプローチを行う際に、非常に重要になるのがM&A後の絵姿を描いてみるということです。
限られた情報の中で考えなければならないかもしれませんが、買収ターゲットとなる企業の事業計画を想定し、M&Aでどんなシナジーが得られるかを描いてみましょう。買収後の絵姿がわかる形で事業計画をつくっている企業は多くはないですが、M&Aの成功率を高めるために大切な作業です。また、このように事前に事業計画を自社で描いているものがあれば、そのうえで前提条件が正しいのかを各フェーズで振り返ることのできる重要な指標となります。
5.面談実施
対象企業への面談は、多くの場合複数回行われます。面談や提案を通じて、両社の理解を深めながら、買収交渉に入っていきます。
対象企業との面談を行う際には、相手企業にとって何がメリットかをしっかりと訴求できるように準備する必要があります。「あなたの企業/事業が欲しい」という意思を示すだけでなく、相手にとってM&Aがどんなメリットがあるのかを示せるように準備を進めましょう。
<対象企業との面談に向けた準備項目例>
・自社の会社、事業紹介
・対象企業に関連する自社の中長期的な事業戦略
・買収提案(シナジー、買収後の経営方針、対象企業にとってのメリットなど)
・今後のディスカッション事項
攻めのM&Aにおける「エグゼキューション・フェーズ」のポイント
M&Aのエグゼキューションフェーズにおいても、「攻め」の姿勢を持ち続けることが重要です。相手企業との対話を重視し、自社の戦略に即した決断を迅速に下すことで、M&Aプロセスをスムーズに進めることができます。特に、入札プロセスで高値を避けるためには、早い段階での対象企業との信頼関係構築が鍵となります。
1.FAは「結果を重視する」パートナーかを見極めるべき
攻めのM&Aにおけるエグゼキューションフェーズに入る前に、まずはFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の選定基準を設定しましょう。
アドバイザーであるFAとは、Pre-M&Aの段階から一緒に進めることが理想です。他方で、FAが入るのはエグゼキューションフェーズからというケースも少なくありません。
選定時には
・なぜ自社にとってこのM&A案件が必要なのか、またその熱量を理解しているかどうか
・対象企業に当社戦略をコミットさせるという視点があるかどうか
という点を特に重視すべきです。
また、デューデリジェンスの重要性を理解するだけでなく、FA自らが事業デューデリジェンスに関するサポートを行えるかどうか、対象企業のセルサイド情報を積極的に獲得できるかどうかもチェックしておきたいポイントです。
M&Aの成否は、自社の描く戦略に対象会社をコミットさせられるかどうかにかかっています。プロセスではなく結果を重視するFAと成果を共有していくべきでしょう。
2.戦略的デューデリジェンスの進め方
エグゼキューションフェーズで重要なのが、戦略的にデューデリジェンスを進めていくことです。戦略的デューデリジェンスを進める上では、専門家に任せる部分と自社が積極的に行っていく部分をしっかりと線引きしていきましょう。
下の図は、戦略的デューデリジェンスを進める際のポイントをまとめた表です。
財務や法務、その他税務やIT・人事といったデューデリジェンスは、対象企業において何かネガティブなものがないかを確認・発見していくことが基本姿勢です。
この部分は専門家に任せて、結果を確認・理解することが重要です。
一方で、自社が主体的に取り組むべき部分は事業デューデリジェンスです。
M&Aの目的を踏まえて、それを達成し得るのか、もしくは想定したシナジーやディスシナジーが起こり得るのかどうかをさらに詳しく検証していきます。
また、事業の妥当性に関しても、この段階でしっかりと検討するべきポイントです。
もう一つ、事業デューデリジェンスで忘れてはならないのが、PMIを見据えた相手企業との相性確認です。この部分を他社に任せるのではなく、自らの手で行うことで、M&Aが成功に近づきます。
3.戦略的デューデリジェンスでは結果にフォーカスを
戦略的デューデリジェンスを行うためには、買収後にどのような結果にコミットを求めていくかといった検討を行いながら実施することが大切です。
M&Aの各現場で、担当者が何をするべきかを理解して、事業計画の各要素にコミットメントできるかどうかを常に意識して進めましょう。
この意識の有無によって、特に大きな違いを生むのが、Post-M&Aで行われるPMIです。M&AのPMIフェーズで失敗してしまうケースとして多いのが、エグゼキューションフェーズでM&Aプロセスを担当していなかった人が責任者としてPMIの現場に入るケースや、戦略を描いて確認する人間とPMI担当者が分かれているというケースです。
また、攻めのM&Aでは、買い手だけでなく対象会社のコミットメントの確認も忘れてはいけないポイントです。
企業の成長と成功を導く「攻めのM&A」実現の鍵は戦略的アプローチ
M&Aプロセスは複雑で多岐にわたる活動を含みます。「攻めのM&A」では、各フェーズで、今回ご紹介したような戦略的アプローチを行なうことが成功のカギを握ります。
「攻め」のM&A戦略は、企業がより積極的に市場での競争優位を築くための大切なアプローチです。今回は、Pre-M&Aフェーズとそれに続くエグゼキューションフェーズにおいて求められる姿勢とポイントをまとめましたので、ぜひ実践に役立ててみましょう。