2024.12.24
戦略的M&AにおけるPMIの重要性と押さえるべき検討事項
M&A完了後には、買い手側企業と売り手側企業の経営や組織、事業の統合が行われます。
PMI(Post-Merger Integration)は、M&A全体の成功を決定づける重要なプロセスです。「PMI」で、買収後のシナジーを実現、最大化するためには一体どんなことが必要なのでしょうか。
日本企業が抱えてきた課題も振り返りながら、成功するPMIのポイントについて解説します。
失敗例から考えるPMIの重要性
M&A(合併・買収)において、PMI(Post-Merger Integration)はM&A成立後の事業や経営・組織の統合プロセスです。M&A全体の成功を決定づける最も重要なフェーズとなるPMIの目的は、買収した企業と自社の統合を円滑に進め、シナジーを最大化することにあります。
しかし、PMIの失敗がM&A全体の失敗に直結することも少なくありません。
上の図のように、PMIの失敗例としては、買収先企業のマネジメントの失敗、想定されていたシナジーが見込めない、統合がなかなか進まないなど、さまざまな事例があります。
日本企業は、PMIがうまくいかないことが多いと言われています。
せっかくM&Aを実現しても、PMIでつまずいてしまえば、投資コストや時間が無駄になるばかりか、経営にも大きな影を落としてしまいます。
PMI検討開始が早ければ早いほどM&Aの成功率があがる
上の図は、2018年に行われた、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社の『日本企業の海外M&Aに関する意識実態調査』結果を示したグラフです。
調査によれば、海外M&Aに取り組んだ企業のうち、M&A戦略の策定やターゲット選定段階からPMIを検討し始めた企業は、全体のわずか20%という水準です。ほとんどの企業がデューデリジェンスや実際の契約交渉のタイミングからPMIをスタートさせています。
一方で、PMIの検討を開始した時期ごとに、M&A後に期待した企業価値をどの程度実現できたかを見てみると、デューデリジェンス開始前からPMI検討を始めていた企業の企業価値実現度が非常に高い割合となっています。
つまり、M&A成功企業は、早い段階からPMIを見据えた準備を進めているというわけです。
※参考|日本経済新聞『デロイトトーマツ、日本企業の海外M&Aに関する意識・実態調査結果を発表』(2018年5月29日)
https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP480900_Z20C18A5000000
成功するPMIのための4つの鍵
冒頭でご紹介したマネジメントや統合がなかなか進まないなどのPMIにおける失敗を回避するためには、M&A戦略立案段階から準備を進めていくことが大切です。
具体的にどんなことを意識して進めるべきなのか、見ていきましょう。
1.早期のPMI計画立案
PMIを成功に導くためには、M&Aの戦略立案フェーズからPMIを視野に入れ、具体的な統合計画を策定することが重要です。
必要なのは、Pre-M&A段階から、自社でM&A後どのようにPMIや事業運営を進めていくのか、また統合に関して時間を要する事項があるかなどを仮説出しすることです。
2.経営陣やキーマンとの対話の重視
買収先企業をマネジメントできないという事態を避けるためには、対象企業の経営陣やキーマンとの対話が非常に重要です。対話を増やすことで、買収先企業にもコミットメントを求められます。
また、両社の戦略や文化の違いを理解し、相性の確認にもつながるでしょう。
想定していたシナジーを実現していくために重要なのが、PMI責任者がM&A戦略を進める早期の段階から案件に関与していくことです。これにより、統合後のシナジーを最大化するだけでなく、統合をスムーズに進めることが可能となります。
3.トップのコミットメントと適切なリソースの投入
統合には、企業のトップによる強力なコミットメントと、十分なリソースの投入が不可欠です。これには、人材や資金だけでなく時間の投入も含まれます。
トップがいかにリーダーシップを持って統合プロセス全体を指揮し、迅速かつ的確な意思決定を行えるかどうかが、PMIの成功を左右します。
4.現場の声を取り入れたシナジー仮説の検証
PMIを通じてM&Aによるシナジーを実現するには、現場レベルでの検討と仮説の検証が重要です。M&Aの戦略段階からシナジーについて具体的に検討し、現場の意見を反映させることで、実行可能なシナジーを構築できます。
PMIでは何を検討するべきか
M&Aの成功可否を左右するPMIは、Pre-M&Aフェーズの戦略立案段階でいかに準備を進められるかにかかっています。最後に、M&A戦略の各フェーズでPMIのためにどんなことを検討するべきかを見ていきましょう。
1.Pre-M&Aフェーズでの検討事項
Pre-M&Aフェーズでは、M&Aの目的設定に加えて、M&A後にどんなシナジーが生み出せるかを検討・設定していきます。
また、PMIに向けて、PMIの責任者も決定し、検討段階からPMIの課題や方向性を仮説出ししていきましょう。
2.エグゼキューションフェーズでの検討事項
続くエグゼキューションフェーズでは、M&Aの目的や目指す姿を買収先企業と共有・合意した上で、経営体制やモニタリング方針に関しても擦り合わせていく必要があります。また、PMIにおいて重要な企業風土や文化の把握、M&A成立後にはどんなふうに組織を統合していくかなどの方針も話し合い、道筋を立てていきましょう。
Pre-M&Aでは仮説だったPMIの論点について、交渉などを経て検証・見直しを図っていく作業も重要です。本フェーズでは、統合後のPMI計画について、KPIの設定や具体的な実行アクションの検討、100日プランに加えて長期プランなども策定していくと良いでしょう。
PMIにおける重要な項目は、サイニング前に対象会社の経営陣と合意を形成しておくことで、実行段階でもスムーズにPMIを進められます。
3.Post-M&Aフェーズでの検討事項
M&A契約締結後のPost-M&Aフェーズでは、いよいよ具体的なPMIを実行していきます。
業務プロセスや事業統廃合、人事制度や人材交流、組織風土や文化の統合・浸透などは、Post-M&A前にある程度つくっていた計画のブラッシュアップと実行に注力できるよう、準備を進めておきましょう。
また、Post-M&Aでは、統合計画のブラッシュアップの場で各現場担当者を巻き込んでいくことも大切です。
「攻めのM&A」の成否はPMIにあり
PMIは、M&Aの成否を決定づける重要なプロセスです。PMIはM&A契約締結前の早い段階から進めることが成功の鍵となりますが、これを実現できるのが「攻めのM&A」戦略です。PMIプロセスを早期に計画できれば、Post-M&Aにおいても効果的に実行でき、企業の成長を支える鍵となります。
日本企業がM&Aで成功を収めるためには、ぜひ、PMIの早い段階からのスタートを意識してみましょう。きっとM&Aがもたらす価値やシナジーを最大化し、競争優位を確保することができるでしょう。